vol.16「いわくつき野菜のすすめ」
vol.16「いわくつき野菜のすすめ」
♪うらみま~す。うらみま~す。
中島みゆきの昔の歌に、こんなのがあります。知らないだろうなあ~。
この、おどろおどろしいフレーズが今年も蔵門の畑から聞こえてきました。
前回、こぼれだねミニトマトの話も、ちらりとしましたが、今回はその派生ネタ。今年もお約束通り、去年育っていた場所に種がこぼれて(正確には、こぼれた実が放置されて)、初夏のある日、一斉に地面から芽を出しました。
高さ15cm程度の幼トマトの葉は柔らかく、「あら素敵。一面トマトの草原ですわ。」ティーカップを口元に運びながらしばらく眺めておりました。が、そんなことをしてても埒が明かないので、間引きをすべく、カップをお腹のポケットにしまいました。(重い腰を上げたという意味ね。)
適当な検討をつけて目が合った株に手を伸ばすと、錯覚かもしれませんが右に左に、ちょっとだけ身をかわします。「ああ~。」負けそうになる気持ちを奮い立たせて、株元を掴んで、エイっと引っこ抜くとね、聞こえてくるんですよ、この歌が。それもですね。100本を10本くらいに選抜する過程で♪うらみま~す。は輪唱状態でヒートアップを続け、私を苦しめ続けます。
今年は、そんな苦しみから少しでも逃れたい一心で、ご近所の二宮農園の押しに弱い方々(あ、違った、心優しい方々)に、その間引きミニトマトを苗としてもらっていただきました。おかげで、その晩は心静かに眠ることができました。
畑の楽しみ方にも、いろいろあって、“いわくつきの野菜”というのも私にとっては大きな楽しみの一つなんですよね。(注:以下“いわくつき”という言葉に悪意はなく、前歴(エピソード)と受け止めていただけると助かります。)
15年くらい前になりますでしょうか。借りたばかりで、まだ畑に隙間があった私に、近くの畑のおじさん(ちなみに、今は、おじいさん!)がくれたのが、くだんのミニトマト苗。そのおじさんが語った、そのルーツである種の入手エピソードもかなり複雑なもので、その時点から語ると、もうめちゃくちゃ“いわくつき”の代物となりますね。(いつか、そのエピソードを私がボケて忘れてしまう前に、どこかで語っておかなきゃなあ。と真剣に考えています。)
大抵、ナス科の野菜は連作障害がでるので、同じ畑では育たないというのが常識だけど、15年という長い間一度も種取りすらせずに、そのトマトが私の畑で居座り続けるのには首をかしげるばかりです。彼らの野性を少しでも奪わないためにも、できる限り放任主義(支柱に括り付けたり、芽かきしたりしない)で育てています。恐らく、人間に手なずけられた野菜に成り下がってないから人間の考える常識は当てはまらないのでしょうね。生えたもん勝ちの雰囲気がプンプンしているから気に入ってくれた。たぶん、きっとそんな所でしょうか。
今更ですが、そのいわくつきミニトマト、今流行りの薄皮極甘系の対極を行く系でして、私から押し付けられた方の中で、その実を無事みのらせた後、がっかりされる方も多いかと思います。文字にするだけですっかり食欲が落ちますが、厚皮淡泊系です。が、しかし、冬の初めまでしつこくしつこくなり続ける驚異的強さにオノノキ、どんな非常事態でもうちにはトマトだけはある!という安心感に浸っていただけたらと願う今日この頃であります。
そしてね、いつかどこかで、生き延びたミニトマト子孫の持ち主が、このくだらない文章を思い出してくれたら、それはそれで面白がれる気がするんですよね。(面白いことは、しっかりどんどん種まきが大事ですから!)
(蛇足ですが、先日、その群落の中に、明らかに違う種類(丸くて如何にも甘そうな実)を見つけてしまい愕然としました。恐らく、遊び心で植えた苗やさん購入ものが、翌年以降、勝手に生えちゃった野菜化したのですね。二宮農園に押し付けた苗の中にその苗が混じっている可能性もあるという事実。後で突っ込まれたときに備えて、さり気なくここにしたためておきます。)
最後に、蔵門の“いわくつき野菜”の中に、このサイト管理署Tさんからいただいた野菜もあります。沖縄帰りの島らっきょ。うちの畑で、大量(見かけた方が驚き、「どんだけ食うんかい」と申されておりました。)の普通のらっきょに押されながらも、細々と生き延びております。その島らっきょを、晩酌のお供でいただく時0.1秒くらい、その種を分けてくださったTさんの顔が浮かび、手渡された瞬間が映像としてフラッシュバックします。そして0.2秒後には、気持ちをビールに戻して、おもいっきり「シャクッ!」というお音を響かせながら、いただいちゃいます。
なんていうか、エピソードがあるものに囲まれるそれだけで、食事が楽しくなる。人生が豊かになる。
今回のネタ“いわくつき野菜のすすめ”、いっちょ上がりました~。
(2020-6-30)
《写真》厚皮淡泊系ミニトマトwith ブルーベリー