vol.15「さくら暦」
vol.15「さくら暦」
「里芋の植え付けはコブシ(モクレンの仲間)が咲く頃だよ」とか「ヤマザクラが散る頃にサツマイモを植えろ」とか、口伝暦というものが沢山あります。そのほとんどが土地の気候風土にあった、農作業時期の目安を教えてくれるやさしい言葉。(最近の家庭菜園の本とか、市販種袋の裏表示とかには、種まきは何月上旬とかの記載方法しかないので、私にとって口伝暦は頼みの綱でもあるんですよね。)
今年の桜の開花時期もそうですが、人間が作った暦や気温のデータ解析だけではどうにもしっくりこない時は、「自然の事は植物に聞くのが一番!」とばかりに謙虚に植物の声に耳を傾けます。
まれにとぼけた個体もありますが、概ね、種族一同、声を揃えて的確なサインを送ってくれています。
畑を何年もやっていると、「ホトケノザの花で畑が紫のじゅうたんに変わる頃」「ウグイスがおどおどと鳴き始めるころ」みたいに自分暦が勝手に出来上がっていますが、ぼーっとしていると見落としてしまうこともたまにあるので、黙っていても目に飛び込んでくるサクラやコブシの花を目安にするのが一番安心ということになるのでしょうね。
ソメイヨシノの開花の便りと共に、毎年決まって憂鬱になることがあります。
我が家にハスの鉢がやってきて、7、8年くらい経つでしょうか?株分け、植え替え用土のコツさえ抑えておけば、育てる事は至って簡単。七夕の頃に、神々しい花を拝むことができます。その花の美しさ、愛くるしさにとりつかれ、株分けのたびに鉢を増やしたくなる衝動にかられますが、その気持ちをぐっと押さえて、今は5鉢ほどの水鉢を狭い庭の一番いい場所に置いています。
ハスの植え替えの作業も、前段の口伝暦で言うと、春の彼岸からソメイヨシノが散る頃までが目安。花が散る頃には、ハスの芽が出始め、作業が難しくなるという経験を何度もしています。ということで、私の中では、「サクラ開花」イコール「重い腰をあげる時期」という関係が出来上がっています。
きれいな花をつけてもらうために、たどりついた結論は大きい鉢で育てること。結果、植え替えにかなりの重労働が求められます。
水ぬるむ春とはいえ、まだまだ4月。ゴム手袋で防備して、一番悪い作業着C(ちなみに蔵門の作業着にはランクがあります。打ち合わせ用がA、畑帰りにスーパーに寄る日用はB等々。)に着替えて作業開始。鉢の中の泥んこの塊を、中のハスの根茎をいためないように気を使いながら「うりゃあ~」と鉢を倒して取り出します。その後、根茎の選別、新たな用土に植え付けを5回繰り返すと、腰が“くの字”に曲がり、こぶしでとんとんとたたきながら歩く即席おばあちゃんの完成です。(それくらい重労働だと言いたいだけなんですが・・。)
ということで、今年もそろそろ、気持ちがどんより(?)してまいりました。やり終えてしまえば、何の事はない、すっきりさわやかな気分になれることは百も承知なんですけど。これもいつものこと。
「このサクラを見ながら、ハスの植え替えに重い腰をあげるのは、あと何回あるかなあ。」
普段はあまりにも、当たり前に、毎日を過ごしてしまっているから、せめてせめてこの時期くらいは、毎年、立ち止まってそう想うように、私はしています。巡ってきた季節に感謝しながら・・。
(2017-4-3)