vol.9「休眠期」
vol.9「休眠期」
冬枯れの畑で鋏を鳴らしていると、その音に誘われてやってきたモズが梅の枝先で尾をくるくると回しています。猫なら、「ムキ~っ!」と飛びつきたくなるような、その挑発的な仕草を視界の端に捕らえながら黙々と一人、作業を続けます。
毎年、畑仕事はキウイの剪定からスタート。キウイの木が眠っているうちに、気づかれないように大胆に枝を切り詰める作業は、寒風吹きすさぶ今が旬。2月後半にもなると、木は一気に水を吸い上げ始めて、芽吹きの準備を始めます。そんな時に、枝を切ろうものなら、切り口からポタポタと水が流れ出て止まらなくなり、切った張本人はオロオロするばかり。というわけで、まさに、「春の足音に追い立てられるように・・」です。
「真冬にしっかり休眠しないと、立派な新芽をだせないぞ」これ蔵門の持論。植木のことかと思いきや、実はこれ自分自身のことなんですね。毎年、春になるとおちおち寝ていられなくなり、夏以降一気に加速、冬にはランナーズハイ状態で倒れこむ状態で年越しを迎えます。だからせめて1、2月は、布団にくるまって冬眠していたい。やがてくるハイテンションに向けて息を殺してパワー充電につとめたい。仏頂面で部屋のすみで膝を抱えていたい。それが無理ならせめてせめて立ち止まって自分と向き合っていたい。ということで、意識的に休眠に努めようとするのですが、ままならないのが世の常、人の常。半分眠たい目をこすりながら出かけて行ってはシドロモドロに会話をして帰ってくる今日この頃。
ただ一つ例外があるとしたら、植木に対してだけは、真摯な態度で臨んでいます。
鳴らしている鋏の音は決して「チョッキン、チョッキン、チョッキンなぁ~。」などという、床屋さんの音色ではなく「チョッキン・・・チョッキン・・・。」
この「・・・」の所で、いろんなことを考えています。「この枝とこの枝を切り替えて」みたいにキウイのことを思っているつもりが、気がつけば「スパッ」と切れた軽い衝撃で、頭の中のぐちゃぐちゃしたものが、脈略もなく吹き出してくる。もや~としたものが突然ストンと腑に落ちる。あるいは、脳内で勝手に分別・整理整頓・断舎利が進んでいく。もはや、この作業は自分と向き合う時間として欠かせないものなのかもしれません。花が咲いて実をつけてその実をいただく。たぶん私は、それ以上のものもキウイの木からもらっているようです。
もう少ししたら、枝のあちこちに、モフモフの新芽が顔を見せはじめます。もうその頃は、自分の身も心もソワソワして、落ち着かなくなってくる。だから、その前に・・、これを書き上げてっと・・。
(2019-2-15)
サクラの枝にモズの図